大阪高等裁判所 平成3年(行コ)20号 判決 1993年3月23日
控訴人
京都府知事
荒巻禎一
右訴訟代理人弁護士
前掘克彦
同
堀家嘉郎
右指定代理人
石田大志
外二名
被控訴人
グループ市民の眼
右代表者事務局長
折田泰宏
右訴訟代理人弁護士
中村広明
同
豊田幸宏
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
主文同旨
第二事実関係
原判決の事実欄記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、二枚目裏七行目の「五条六号」の次に「前段(府若しくは国等が行う審議、検討、調査研究その他の意思形成の過程における情報であって、公開することにより、当該若しくは同種の意思形成を公正かつ適切に行うことに著しい支障が生じるおそれのあるもの)」を加え、三枚目表二行目の「本件処分は違憲、違法であるから」を「よって」に改め、同行目の「、被告に対し」を削る。
第三当裁判所の判断
一請求原因(一)(当事者)及び(二)(処分の経緯)の各事実は、当事者間に争いがない。
二ところで、被控訴人は、公開条例は憲法二一条一項、二五条の規定により保障される住民の地方公共団体に対する情報公開請求権を具体化したものであるから、これを制限し、意思形成過程の情報の非公開を定める同条例五条六号前段の規定は違憲無効であり、仮に合憲であるとしても、本件にこれを適用して、情報公開を拒否した処分は違憲であると主張する。しかしながら、地方公共団体に対し情報の公開を請求する住民の権利は、憲法二一条一項に密接に関連するものではあるが、憲法上の権利とはいえず、条例によって創設された権利である。したがって、公開条例の各規定につき憲法二一条一項等に直接かかわる違憲無効の問題は生ずる余地がない。被控訴人の本件請求が認められるか否かは、公開条例の規定の解釈適用によって判断するべきである。
三そこで、右の見地から、本件処分の適否について判断する。
1 協議会は、鴨川の改修に関し学識経験者等の意見を幅広く聞く目的で昭和六二年七月に設置されたものであること、また、鴨川が同年一二月に「ふるさとの川モデル河川」に指定されたため、右協議会がふるさとの川モデル事業の整備計画検討委員会の機能を併せ持つことになったことは、当事者間に争いがなく、証拠(<書証番号略>、証人北小路光男、同多田敏一、弁論の全趣旨)を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 鴨川(建設大臣から控訴人が管理を委任された一級河川)は、現在はもちろん、歴史的にも人々の生活とともにあり、京都府民や訪れる人に親しまれ、「京都の顔」ともいうべき河川である。協議会(学識経験者一三名及び行政関係者五名の計一八名の委員で構成される。)は、控訴人から、鴨川の改修に関し、①(治水対策)(a)改修の計画規模及び基本高水流量の設定、(b)治水対策方式のあり方について、②(景観対策)三条から七条間の整備構想について諮問を受けたところ、きたんのない意見の交換・積み重ねを通じて公正かつ適切な提言の取りまとめを図る趣旨から、その会議を非公開とした。なお、協議会は、第一回開催時、各回の会議終了後審議内容の概略を発表することを決めた。
(二) 協議会は、鴨川の治水対策の基本となる安全度については、大都市を流れる河川であることから、一〇〇年に一度起こりうるとされる豪雨を対象とすることとし、これにより、治水計画の基準となる荒神橋地点における最大流量は、将来の土地利用の進展や流出形態の変化などを最大限に見積もって評価すると、毎秒一五〇〇立方メートルと想定されるが、土地利用の現状や都市景観の保全、治水事業の効果などを総合的に考慮して、当面、毎秒一二〇〇立方メートルの流量を目標として整備を進めることが妥当であることについてほぼ了解に達し、毎秒三〇〇立方メートル分の治水対策として、ダム構想、分水路構想、二階建河川構想等の方式の検討がなされた。
(三) 本件文書は、昭和六三年一一月二八日開催の第五回協議会提出資料中の図面であるが、ダム構想が構想として成立し得るかどうかの検討資料とするため、京都府土木建築部河川課(協議会の庶務を処理する部課)が鴨川流域において貯水が可能な地形を二万五〇〇〇分の一の地形図から読み取り、それを流域図に示したものにすぎず、ダムサイト候補地選定の重要な要素となる地質・環境等の自然条件や用地確保の可能性等の社会的条件についての考慮を全く払うことなく、作られたものである。
(四) 第五回の協議会終了後、その審議内容の概略の報告が記者会見の形でなされた際、ダム構想のあること、その図面が協議会に提出されたことも発表さた。その結果、その後協議会委員に対し、ダム建設について、交渉を申し入れる団体や面談を強要する者があり、また、協議会委員宅に無言電話があり、また、電話で種々強い調子で申し入れをする者が現れ、委員の中には、その職を辞任したい意向を示す者がいた。河川課に対しても、ダム建設について交渉を申し入れる者がいた。
2 以上の事実によれば、本件文書は、「ダムサイト候補地選定位置図」と称するものの、ダムサイト候補地選定の重要な要素となる地質・環境等の自然条件や用地確保の可能性等の社会的条件について検討を経ない段階で、協議会のダム構想検討の資料とするため、京都府土木建築部河川課が鴨川流域において貯水が可能な地形を二万五〇〇〇分の一の地形図から読み取り、それを流域図に示したものにすぎず、いわば協議会の意思形成過程における未成熟な情報であり、公開することにより、府民に無用の誤解や混乱を招き、協議会の意思形成を公正かつ適切に行うことに著しい支障が生じるおそれのあるものといえる。
なお、証拠(<書証番号略>、証人北小路光男)によれば、控訴人は、平成二年七月二日開かれた六月定例府議会で、鴨川改修計画についてダム建設を行う考えがないことを明らかにしたこと、それで、協議会は、治水対策につき分水路建設案等を中心に検討し、平成三年八月二一日、鴨川改修のあり方につき提言を出して解散したが、その提言の中にダム構想についての言及はないことが認められるが、本件処分の適否は、平成元年六月一二日の処分時の事実関係に基づき判断すべきであるから、本件処分の適否を判断するにつき、右事実を考慮する余地はない。
したがって、控訴人が本件文書を公開条例五条六号前段該当の文書として公開しない旨の決定をしたのは相当である。
四以上によれば、被控訴人の請求は理由がないから、本件控訴は理由がある。
(裁判長裁判官中川敏男 裁判官渡辺貢 裁判官辻本利雄)